無常の月

ALL THE MYRIAD WAYS

ラリイ・ニーヴン
1971

 中学生の頃、限られたお小遣いを持って、田舎の本屋に並べられた文庫本の中から値段と内容とを吟味し、悩んで買った1冊。表紙もかっこいいし、「スーパーマンの子孫存続に関する考察」とか「タイム・トラベルの理論と実際」とか目次のタイトルにも、中学生にはたまらないものがあったのだ。
 読んでみると、頭の中には???が並んだりもした。だいたい当時は「レンズマン」とか「キャプテン・フューチャー」とか「火星の大元帥カーター」とかを読んでいたので、それからするとちょっと大人すぎな内容の作品が多かったのだ。
 それでも、とても心に残る短編が多いのも本当。よかったよ、中学生の時に読めて。

 短編集として初期の様々な作品が並べられており、ノウンスペースシリーズの中に位置づけられる「待ちぼうけ」「ジグソー・マン」「地獄で立ち往生」も収録されている。
 また、多元宇宙を扱った「時は分かれて果てもなく」「霧ふかい夜のために」や、高次の存在を扱った「路傍の神」などはウイットの効いた作品でテレビなどで人気の「怪奇現象ドラマ」の原作といっても良い感じである。というより、こういうのに触発されてそういうドラマができるんだろうな。ちょっと毒のあるブラッドベリかも。
 こういった作品は分かりやすくてなじみが良い。

 異色の作品と言えば「マンホールのふたに塗られたチョコレートについてきみには何が言えるのか?」である。マンホールの蓋に塗られたチョコレートについて、あなたは何か言えますか? 私はそれが清潔でおいしかったら食べますね。
 物語は正統なSF作品である。あるパーティでひとりの男が言った「やあ、すべてのアダムとイヴ伝説は、すべて本当のことだと思うかい?」この一言からSFを紡ぎ出してみてください。

 日本語版のタイトルとなった「無常の月」はニーヴン版「地球最後の日」。夜、気がつくと突然月がものすごく明るくなっている。その原因は?主人公は原因に思い立ち、寝ている恋人のところに電話をかける。天体マニアの彼女は、月の明かりを見て…。
 短編はアイディア勝負だから、これ以上は説明しないけれど、どうです、月が突然明るくなる原因分かりますか?

 という質問を投げかけたところで、この短編集の要の作品を紹介。ニーヴンがいかにSFを愛していて、オタクで、SFファンを愛しているか、という作品である。
 そして、中学生の私には「スーパーマン」の下ネタを除いてさっぱりわからなかった作品でもある。

「スーパーマンの子孫存続に関する考察」は、タイトル通り。例の青い服を着て、胸にSマークをつけている人間そっくりの宇宙人は果たして子孫を残せるのか?という深遠なテーマを深掘りしてみると。なにせ母星はなくなり、同族はほぼいないなかで、ふだんは地球人として生き、地球人の恋人がいるのである。そこには難題に次ぐ難題が。

「脳細胞の体操-テレポーテーションの理論と実際-」こちらは、実際の講演をもとにして書き上げられたもの。表題通りで、テレポーテーションの定義、歴史、類別(超能力式、機械式)、その理論と実際。とりわけ機械式の場合の方法を仮定し、その可能性を検証するもの。過去のSF作品などを引用しながら新たな可能性にも迫るのである。

「タイム・トラベルの理論と実際」こちらも同様であるが、ニーヴンはタイムトラベルについては厳しい態度をとっている。親切に過去へのタイムトラベル、未来へのトラベル、パラドックスなどを解きほぐし、その小説としての歴史も辿った上で、なぜタイムトラベルの作品が書き続けられるのかという大問題にも迫る。これを読む限り、ニーヴンはタイムトラベルをSF作品として書くことはあり得ないはずだ。

 最後に、エラリー・クイーンの超短い推理小説をしのぐニーヴンの超短いSFをふたつ。それが「未完成短編 一番」と「未完成短編 二番」である。大人になって老齢にさしかかってようやくこの作品のおもしろさが分かってきた。遅いか。