惑星アイリータ調査隊


DINOSAUR PLANET

アン・マキャフリイ
1978

 書かれていない作品を最初から三部作と位置づけてしまったことで書かれなかった第三部を待っているうちに作者が亡くなってしまい、決して書かれなくなることはよくあることだ。作者が亡くなったのだから、あきらめはつく。それよりももっと多いのは、書かれたのに日本語には翻訳されなかったシリーズの後編というやつである。これは泣くに泣けない。最近は、紙の本の出版が減ったこと、海外SFの需要が減ってきたのかもしれないが、第一部だけが翻訳されてそのままということもある。寂しい限りである。どうしても読みたければ原書を調達して読み解くしかない。がんばれ、私。

 さて、本書「恐竜惑星1 惑星アイリータ調査隊」は1978年に発表され、日本では1986年12月に翻訳出版されている。続編の「恐竜惑星2 アイリータの生存者」は1984年に書かれ、1989年に翻訳出版された。創元社から出されているのだが、当時、創元社からは「歌う船」だけが出されていて「パーンの竜騎士」シリーズなどはハヤカワからであった。「歌う船」シリーズは、1969年に初出だが、シリーズ化されたのは1990年代以降である。ということで、SFブームの1980年代後半、創元社が手にしたマキャフリイの作品として期待されたのだ。当初三部作が予定されていたため最初から釣り書きにも「三部作」と明記してある。しかし残念ながらこのシリーズは次巻第二部を持ってその後が書かれることはなかった。マキャフリイは惑星アイリータを第一部、第二部で描ききることでちょっと満足してしまったのかも知れない。

 では、惑星アイリータと知的惑星連合の調査隊について。
 人類および人類の変化種である高重力人、いくつかの異星人種からなる「知的惑星連合」というものが存在する遠い未来の世界の話。どの知的種族にも必要とする希少元素を探索するため「探検評価隊」が組まれていた。そのひとつ探査船ARCT-10は恒星アルータンの3つの惑星の調査を開始する。それぞれの惑星条件に合わせて探査隊は組織、派遣されるため、惑星アイリータには人類種族のみの調査隊が入ることになった。共同指揮官のカイはARCT-10育ちの男性であり、もうひとりの指揮官ヴェアリアンは惑星育ちの女性で異星生物学者である。ふたりとも初の指揮官であり、惑星アイリータの探査隊は比較的経験の浅いメンバーと、ARCT-10の4人の子供たちから構成されていた。また、メンバーの中にはその身体機能の必要から力の強い高重力人も加わっているのであった。
 調査開始からまもなく、母艦であるARCT-10との連絡がとれなくなってしまう。彼らの中には、彼らが「調査隊」としてではなく「植民者」として置き去りにされたのではないかと懸念する者も出てくる。
 さらに、惑星アイリータにははるか大昔に現在の知的惑星連合と同じ装置を用いて地質調査をした痕跡が残っていた。未踏の惑星のはずなのに。
 さらに、さらに、惑星アイリータにはふたつの起源をもつ生態系が存在しており、そのひとつは人類と同じように赤い血を持つ動物群を頂点にしていた。その姿は人類の母星地球でかつて栄えた動物たちにあまりに似ていたのである。
 この不思議な惑星アイリータで、いま、調査隊の中に反乱の危機が迫る

 という物語である。惑星アイリータとは何か?なぜ知的惑星連合の星図では未踏のはずなのに、同じ技術の痕跡があるのか?地質学的時間が推移しているがその時間経過は?誰が?なぜ? この動物たちは? そして、自分達は本当に強制的植民者として置き去りにされたのか?いくつもの謎の中で、若いふたりの共同指揮官が活躍するのである。

 もちろん、マキャフリイであるから、若き女性指揮官ヴェアリアンの活躍がメインとなる。なんといっても本職が異星生物学者、タイトルにあるとおり「恐竜惑星」の謎を解明するのに彼女ほどうってつけの存在はいない。そして、出自文化の異なる共同指揮官カイとの関係。マキャフリイ節炸裂である。
 とはいえ、マキャフリイが書きたかったのはこの惑星アイリータと、その生態系そのものだったように思う。馬を愛し、竜を愛するマキャフリイが、「竜」だけでは描ききれない生態系そのものを描き出すことを楽しんだ、そんな作品なのだろう。