ラット・ランナーズ

ラット・ランナーズ
RAT RUNNERS

オシーン・マッギャン
2013

 すごく読みやすいヤング・アダルト近未来SF。舞台はロンドン。警察国家、超監視社会、格差社会の未来都市では、すべての人が監視対象となっている。町中の監視カメラ、監視塔、さらに顔もすっぽりと隠して様々なデバイスを身につけた「安全監視員」がウォッチワールドからの指令を受けながら公道、私邸を問わずプライバシーを侵しながら不法・違法行為を探している。その中には、たとえばブラッドベリの「華氏451度」のような危険思想の本の摘発も含まれている。
 ただし子どもの成長を考え16歳になるまでは厳しい監視を免除されている。
 裏社会のボスたちは、だからこの少年少女たちをうまく使い、監視の目を逃れながら様々な犯罪行為を行なってきた。様々な理由から少年少女たちもまた裏社会に依存して生きてきたとも言える。彼らは町の屋根裏などを走り回るネズミ、すなわちラット・ランナーと呼ばれていた。

 15歳の少年ニモはそんなロンドンでさまざまな知恵と技を使って一人で生き抜いてきた少年。事件はひとつの殺人事件からはじまる。ホームレスだったニモに部屋を貸してくれている科学者のワトソン・ブランドルが何者かに殺された。ブランドルは殺される直前に隣室に住むニモに「安全監視員から隠して欲しい」と小さなケースを渡していた。
 このケースをめぐって裏社会が動き出す。
 ニモは、裏社会のボスに呼び出されブランドルのケースを探すよう命令される。裏社会ではニモがブランドルの隣室の少年だとは知られていないのだ。その場でケースを渡すこともできたが、ニモはブランドルの殺人犯とその動機を追及したいと考え、ボスには自分のことを黙ることにした。
 ニモは、変装がとくいな少女マニキンとコンピュータハッキングを得意とするFXの兄妹、それにボスの秘蔵っ子でコンピュータをはじめバイオ技術、化学技術に精通する少女スコープとともに「ケースを探す」ミッションを開始する。
 それぞれにボスに弱みを持つ4人の少年少女がお互いに疑心暗鬼をいだきながらも専門知識と技能を活かしながら複雑にからみあった状況に対応していく。

 ヤング・アダルト小説にありがちな恋愛要素なしである。そんなところで読ませないぜ、という作者の矜持を感じる。
 この4人のラット・ランナーズのそれぞれの視点で書かれているので、いわゆるハードボイルド小説とまではならないが、十分にスリルのある作品に仕上がっている。

 近未来小説なので使われている技術自体はさほど新しいものはなく、インプラントデバイスがあったりするがRFIDのような小さなデバイスが多く登場して諜報活動に使われる。位置情報、盗聴、監視…。それは現在のほんの先の技術であり、これを権力と併せれば簡単に監視国家は完成する。この「ロンドン」では警察官の数はどんどん減って安全監視員ばかりになっていく。そういえば日本のアニメーションの「PSYCHO-PASS サイコパス」では「厚生省」が警察に代わって人の内面を「犯罪計数」で判定するシステムを完成させていたが、同じような方向性である。
 今日の技術の悪い方向に使われた世界が書かれた作品のひとつでもある。