シンギュラリティ・トラップ

シンギュラリティ・トラップ
デニス・E・テイラー
THE SINGULARITY TRAP
2018
 読み終わってから、作者が「われらはレギオン」3部作の人だったと気がつき、合点がいく。舞台は近未来の太陽系。主人公は、地球での収入増が見込めず、近い将来破綻が予測される家族の夫であるアイヴァン・プリチャード君。プログラム専門家だ。一発逆転のためにアステロイドベルトで鉱物を採鉱する採鉱船に乗ることにした。鉱物にめぐまれた小惑星を発見すれば大金持ちも夢じゃない。過去の探索で失敗し、破綻寸前の採鉱船マッド・アストラの株を買い、専門要員として乗り込むことになった。
 そのはるかはるか昔、人類が地球上に進化し登場するはるか昔のこと、恒星系から恒星系へ旅を続ける自動航行船が太陽系に入り、そこで地球上での生命活動の兆候を発見し、知的生命体の出現に備えて遠くの小惑星に「密使」をしかけ、そしてまた別の恒星系へと飛び立っていった。
 王道のテイラーにとってここからしばらくは予想通りの展開。ある有望な小惑星を発見し、そこの所有権を確保するために2重小惑星に乗り込んだマッド・アストラ号とアイヴァン君。小惑星のひとつばビンゴ!大当たりで、乗員全員が大金持ちになること間違いなしの上物。ところだ、小惑星のもうひとつで、「密使」と接触し、アイヴァン君に変化が!!! えらいこっちゃ、ばれると採鉱船ごと隔離される。とはいえ、地球や軌道上の宇宙港を汚染する可能性は否定できない。お金は欲しい、アイヴァン君の様子は気になる。
 さあ、どうする、どうなる。
 という物語だ。
 そこから先は、テイラーお得意のユーモア満載ごり押しストーリー。
 それにしても、「密使」を置いた先行宇宙知性体の目的は何だ?
 宇宙では何が起きているのか。
 1冊で話がとても大きくなるぞ。
 とてもお得かもしれない。
 もともと、オーディオブック用に書かれた作品だけに流れが分かりやすく、ハラハラドキドキも基本に忠実。小説の組み立ての勉強になる。
 物語が大衆化していくことはいいことだ。
 さて、原題のシンギュラリティ・トラップだが、その言葉通り、人類はシンギュラリティを迎える直前の状況である。はたしてシンギュラリティは人類に何をもたらすのか。この20数年、多くのSF作家がこの問いを物語にしてきた。それは地球上で完結することはなく、常に宇宙規模の話となっていく。本作品は太陽系とはいえ宇宙空間で宇宙船が主舞台なのでシンギュラリティについて考える上でも興味深い舞台設定になっている。
 シンギュラリティで生まれる知性は、人類をどう扱うのだろうか。
(2021.1)